人工股関節置換術を受けられる患者さまへ

下記の項目は、人工股関節置換術の手術を受けられるかた、あるいは人工関節の手術について知っておきたいと考えていらっしゃるかたを対象として作成したものです。

人工股関節置換術を受けられる患者さまへ

東京警察病院 整形外科
人工関節センター

人工股関節置換術を受けられる患者さまに

人工股関節置換術とは、痛んだ股関節内の骨や軟骨を削り取り、代わりに金属やセラミック、プラスチックなどでできた人工関節を入れて、疼痛のない歩行を可能とする手術です。
現在、日本国内では年間3万人に人工関節の手術が施行されています。
東京警察病院では1970年代前半から導入し、現在まで1200人を超える患者さまにこの手術を受けていただいております。
人工股関節置換術は医者まかせの手術ではなく、成功させるためには患者さん自身の管理や自覚が不可欠です。下記の項目で、ご自身の手術について知ってください、学んでください、理解を深めてください。そして一緒に手術を「成功」させましょう。(下記項目をクリックしてお読み下さい)
  • 1.人工股関節置換術の適応

    • 手術の対象となるのは

      • 変形性股関節症
      • リウマチ
      • 大腿骨頭壊死症
      • 骨折などの外傷

      が原因で、股関節の軟骨や骨の破壊がすすみ、歩行補助器具(杖や押し車)を使用しても、痛み止めを飲んでも、歩行時の疼痛が強く我慢できないというかたです。変形による拘縮が著明で歩行に支障をきたす場合も適応となります。
      手術によって痛みはほとんど消失し、歩容も改善します。

  • 2.人工関節の限界

    • 人工関節の欠点は、人工物(いわば消耗品)であるために、耐久年数が存在することです。現在の製品で20年以上の耐久性はあると考えられていますが、よく動く若い方が手術された場合には、耐久年数は短くなります。そこで、当院では人工関節を行う基準を、概ね 50歳以上としています。しかし、特別な理由があり、もう少し若い方に行うこともあります。

      人工関節

  • 3.人工股関節置換術の詳細

      1. 麻酔法
        全身麻酔硬膜外麻酔を併用します。硬膜外麻酔は腰部より脊椎内に細いチューブを入れ、麻酔薬で神経ブロックをして除痛をします。麻酔については手術前日に、麻酔医よりさらに詳しい説明があります。
      2. 皮膚の切開および展開
        MIS(最少侵襲手術) を基本概念に、前方進入法(OCM法)、前側方進入法、後側方進入法から状況に合わせて選択しています。小さな皮膚の切開(10cm以内)で手術を行う方法も症例によっては可能です。
      3. 人工関節の設置
        人工関節の構成要素は大腿側インプラントと骨盤側インプラント、その接合部分ではセラミックとポリエチレンです。骨に接する部分は金属(主にチタン)です。重さは全体で約500gです。骨とインプラントの固定に骨セメントを用いる場合もあります。
      4. 手術時間について
        手術時間そのものは 約1時間半 ですが、麻酔導入や器材の準備、麻酔覚醒のための時間が必要なので、病室に帰るまで 合計約4時間 です。

        人工関節左写真:左から、骨盤側インプラント、それを留めるスクリュー、ポリエチレンのインナー、セラミックのヘッド、そして大腿骨に入るインプラント
        右写真:以上を組み立ててみたところ。

      5. 出血量
        術中出血量は150-500ml前後です。術後出血と合わせると約800mlです。
        そのため 術前に自己血貯血(400-800ml)を行う場合もあります。
        当院では患者さん自身の安全を考慮したうえで、自己血・日赤血の輸血を拒否(宗教上の理由)される方の手術には応じていません。
      6. 術後の経過について
        術後翌日に離床、可能であればリハビリを開始し、約2週後に一本杖で退院です。
        詳しくは、別刷りの入院治療計画書をご参考ください。
  • 4.手術の合併症と危険性について

      1. 股関節周囲に起こる可能性のある合併症
        1. ①感染
          創部に細菌が入り、炎症をおこすことです。発症率は1~2%です。術後の感染は創部の発赤、疼痛、発熱、そして血液検査で判断します。軽度の感染であれば抗生剤の継続で対処することができますが、重度の場合は傷を開けて洗浄します。
          手術後数年経ってから感染が発症することもあります。とくに体の他の部分に感染巣(虫歯、歯槽膿漏、副鼻腔炎、胆のう炎など)がある場合には要注意です。術前に感染巣の治療を済ませておく方が望ましいですし、術後に発症した場合はできるだけ早期に治療を開始することが重要です。
        2. ②脱臼
          脱臼の発症は2~3%です。脱臼しやすい動作があります。膝を崩して座ることや、和式トイレを使用することは脱臼しやすい動作であり、術後永久的に禁止されます。禁止・要注意動作は入院中のリハビリでしっかり学んでください。脱臼を何度も繰り返す場合は再手術を行うこともあります。
        3. ③骨折
          大腿骨に人工物を打ち込む際に亀裂骨折を起こすことがあります。骨折が生じた場合は後療法が遅れます。
        4. ④血管損傷
          非常に稀な合併症です。骨盤側に金属をスクリューで固定する際に骨盤内の血管を傷つける可能性があります。この合併症が生じた場合、生命に危険が生じますので早急に腹部切開を行い血管縫合をおこないます。
        5. ⑤神経損傷
          手術中の体位や術後の圧迫創に合併して下肢の神経麻痺が起こることがあります。
          これも非常に稀な合併症です。起こったとしても一時的で、しだいに回復します。
        6. ⑥脚長差
          われわれは人工関節を設置するにあたり、両側の脚長を揃えるように努力しています。しかし、脱臼を予防するために軟部組織の緊張が必要なときがあります。この場合、手術中の判断で、インプラントを調整し、あえて脚を長くして軟部組織のバランスをとらねばなりません。この際は脚長差が生じますので御了承ください。脚長差は足底板や靴で補正します。
        7. ⑦人工関節のゆるみ、破損
          手術後20-30年で人工関節が破損したり、骨との間でゆるみが生じることがあります。破損は主にポリエチレンの部分です。破損やゆるみが生じてもすぐに痛みが出現するわけではありません。しかしゆるみが大きくなりますと、2回目の手術が難しくなります。この兆候を見逃さないためにも『年に一度の定期健診』は重要です。
        8. ⑧関節の可動域制限
          人工股関節の手術後の関節の動く範囲は、手術前の動きに比例しますが、おおむね屈曲100度くらいと考えておいてください。靴下が履ける程度で、正座は可能です。 それ以上動くようになる場合もあります。
      2. 全身状態に関する合併症
        1. 肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
          同じ姿勢を取り続けることで、下肢の血管内に血栓ができ、これが静脈内を移動して肺の血管を塞ぎ、急激な呼吸不全を起こします。2000人に1人の割合で発症すると言われています。重症例では死亡することもあります。脚のむくみも血栓に関係します。肥満、糖尿病、悪性腫瘍、静脈血栓の既往のある方は要注意です。予防策としては早期運動療法が最も効果が高く、手術当日からの下肢運動、翌日からの離床、立位訓練を励行しています。そのほか下肢エアマッサージ器、抗凝固剤の投与も行います。
        2. 金属アレルギー
          挿入した金属(チタンなど)に対しアレルギーを起こす方がいます。この合併症は非常に稀ですが、いったん起こると金属の入れ替えが必要となります。
          金属アレルギーのある方はあらかじめ担当医に御相談ください。
        3. 骨セメントによるショック
          骨粗しょう症が著しい場合などは、骨セメントを使用して金属を固定しますが、骨セメントによるショックの報告があります。当院ではセメントを用いた人工股関節置換術の死亡例はありません。
  • 5.手術後の生活上の注意と可能なスポーツについて

    • 上記の合併症にも記載したとおり、人工関節の脱臼は注意すべき合併症の一つです。
      脱臼を防ぐ目的で、自宅は「洋式;椅子を使用する生活」に変更してください。
      正座は可能ですが、床からの立ちしゃがみが頻回となるのは望ましくありません。
      和式トイレは厳禁です。旅行先でも洋式トイレを見つけておきましょう。
      車と自転車の運転は、術後6週から可能です。
      可能なスポーツ:卓球、ゴルフ、水泳、ハイキング、初~中級の山登り
      注意が必要なスポーツ:テニス、サーフィン
      禁止されるスポーツ:ランニング、スカッシュ、スキー、スケートなど

  • 6.かかる費用の概算(2週間入院で)

    • 概算で240万円です。
      3割負担の方であれば、窓口でのご負担は約80万円です。
      後に「高額療養費」の返還の手続きを行えば、ご負担はさらに少なくなります。
      お支払いについては入退院係にご相談ください。

  • 7.手術をお断りする場合

    • 全身状態が極端に悪く、手術前後の管理が十分にできないと判断される時、または当院の規則を守れない方などは、手術をお断りする場合もあります。

      人工股関節置換術の説明をさせていただきました。最終的に医師や病院を選び、治療法を選択するのは患者さんご自身です。手術承諾書に署名した後でも、辞退することは可能ですので、遠慮なくお申し出ください。

  • 股関節体操

    • 股関節周囲筋(腸腰筋 中臀筋 大臀筋)の強化・ストレッチです。

      • 運動は1日1回、1運動10回の繰り返しを目安に行ってください。
      • 自分のペースでよいので、「明日もやろう!」と思える程度で。
      • 継続することが大切です。